Brand strategy column-ブランド戦略コラム-

事例から見るブランド戦略

有名企業から学ぶ!最新ブランド体験事例3選/モノを売る時代からコトを体験する時代へ~

2019.08.01

みなさんは「ブランド体験」「カスタマージャーニー」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?

今、商品やサービスを単体で売るのではなく、「ブランド体験」が顧客の脳の記憶の中軸になるように設計して商品やサービスを販売する方向へと、マーケティングが変化してきています。

ビジネスのスピードが加速している昨今、その変化に対応できなければ大手企業でさえ生き残れないという厳しい時代。

企業がこれからの時代を生き抜いていくためには、必要な「ブランド体験」や「カスタマージャーニー」とは何か、有名企業の実際の成功事例を交えて、ブランド戦略コンサルタントの吉田ともこが分かりやすく解説いたします。

CONTENTS:

1.ブランド体験とは
2.ブランド体験が生まれた背景
3.カスタマージャーニーとは
4.実際に成功した3つのブランド体験事例
  1)無印良品のMUJI HOTEL
  2)LEXUSの体験型施設「LEXUS MEETS...」
  3)L’OCCITANEの接客コンテストとキャンペーン
5.まとめ~消費者の心に届くブランド体験~

1.ブランド体験とは

「ブランド体験(Brand Experience)」とは、ブランドの世界観を顧客が感じることを言います。
それは顧客がブランドと接するあらゆるコンタクトポイント(接点)で起こります。
購入前に見たウェブ、実際の店舗で商品やサービスに触れることはもちろん、イベント、広告、スタッフの対応などなど、接点は数限りなくあります。

また、ブランド体験はSNSでシェアされることが日常的になっているため、友人に伝えたくなるようなブランド体験を提供することが、企業にとって特に重要になってきています。
顧客は、投稿したブランド体験に「いいね」されるたびに満足感が高まり、自らのブランド選択が正しかったと背中を押されたような嬉しい気持ちになります。
それにより、そのブランドをますます好きになっていったり、もっとブランドの良さを広めたいという思いに駆られたり、ファン化が促進します。
一方、ブランドはSNSのネタにしてもらうことで認知度が上がり、投稿への「いいね」数が増せば増すほど、ブランド価値が高く見えてきます。

見方を変えれば、消費者とブランドは「ブランド体験価値を上げるために共創(Co-Creation)している」と言えます。

2.ブランド体験が生まれた背景

かつて人々がモノを欲し、消費に飽くなき意欲を燃やした時代がありましたが、今や成熟化社会。
必要なモノやサービスは消費者の手に行き渡っており、類似の商品やサービスが巷に溢れています。
何か目新しいモノが市場に出ても、すぐに追随され価格競争の波にのまれてコモディティ化(汎用化)していきます。

商品やサービスが市場に投入されて、支持を得て成長し、成熟期を経てだんだんと売れなくなり撤退するまでのプロセスをプロダクトライフサイクルと呼びますが、そのサイクルが今、急激に短くなっているのです。

溢れかえったモノの中で消費者のニーズは、「モノを知る時」「買う時」「使う時」にどれだけ特別な体験が得られるかという方向へと変化していきました。
これが「モノからコトへ」と言われる背景です。
「コト」とは、その商品やサービスによって得られる「ブランド体験」のことです。

企業は、その商品やサービスにまつわる特別な体験をどう設計するかに注力しています。購入までの体験、購入時の体験、購入後の体験を丁寧に設計し、ブランド体験を通して購入後も長く良い関係を維持しようとしています。

3.カスタマージャーニーとは

「カスタマージャーニー」とは、顧客のブランド体験を「旅(ジャーニー)」に例えたもの。
ある商品サービスを認知して購入してリピートするという一連のプロセスを顧客の旅として捉えると、この旅の途中にはさまざまなブランドとの接点があることが見えてきます。
それを俯瞰し、コントロールするためのツールとして、「カスタマージャーニーマップ」があります。

「カスタマージャーニーマップ」では、顧客の「行動」「思考」「感情」を明確にし、どこでどのような体験をさせるのかの道筋を作り、時系列で顧客の行動の全体像が把握できるようにします。
設計段階では、仮説の道筋ですが、それを実際に運用し、顧客の反応を検証して、より良い仮説を立てていきます。

このように「カスタマージャーニーマップ」は、「ブランド体験」のブラッシュアップに活用します。

4.大手企業に学ぶ3つのブランド体験事例

有名企業の3つの「ブランド体験」をご紹介します。全て店舗型、実体のある体験がブランド価値を高めることに注目してください。

1) 無印良品銀座での圧倒的なブランド体験量

無印良品は「これでいい」をブランド・アイデンティティに、「感じ良い暮らしは、感じ良い社会をつくる」と発信しているブランドです。このブランドの特徴は、商品を通して社会の在り方にメッセージを送っている点です。

2019年4月4日、「感じ良い暮らし」の衣食住を全身で体験できるブランド体験型施設「MUJI HOTEL」を銀座にオープンしました。B1階には「MUJI Diner」という無印良品食堂、1階~6階は6500アイテムというほぼフルラインナップが会した無印良品ショップフロア、6階は日本初の「MUJI HOTEL」のフロントやサロン等の特別なスペース、7階~10階がホテル客室という構成になっています。

中に入ると、高い天井と天然木の空間。独特の清潔感に包まれます。
どれほど商品量があっても、すっきりと美しく見えるのは、省き簡素化することで魅力を作るというデザインだからでしょう。特にホテルのフロントがある6階は、特別なしつらえです。
デザインやモノづくりに関する展示をする2つのギャラリー、コーヒーやアルコールを楽しめるサロン、世界中のデザインや暮らしにまつわる書籍を集めたライブラリーなどがあり、無印ファンでなくてもその世界観に魅了され、ついつい長居したくなります。

そんな自分を SNSで発信してちょっと自慢したくなったりします。
ホテルの宿泊客は、客室の家具やドライヤーにポットなどを体験して気に入れば、SNSで発信したり、階下のショップで購入したりしてくれるわけです。

まさに、これこそがブランド体験価値を上げるために消費者とブランドが共創している成功事例と言えるでしょう。

2)LEXUSで憧れや夢のライフスタイルを育てる「LEXUS MEETS...」

日本を代表する高級車ブランド、LEXUS(レクサス)は、2018年3月に東京ミッドタウン日比谷に日本初となるブランド体験型施設「LEXUS MEETS...(レクサスミーツ)」をオープンさせました。
これは、従来の車を見たり試乗したりという車だけに特化した体験ではなく、車のある暮らし、車といっしょのライフスタイルとは何かを教えてくれる施設です。

ブティック&ギャラリーでは日常を豊かにする雑貨が並び、実際に購入することもできます。
カフェではピクニック気分を味わったり、サーキットの疾走体験ができるVRもあったりなど、車のショールームというより、まるでオシャレなアミューズメント複合施設のようです。

車にそれほど興味がなくても気軽に入りやすく、知らず知らずのうちに「 LEXUSでピクニックに行ったら、こんな感じかな」と、LEXUSブランドを意識させるような仕掛けになっていて、実に上手い「ブランド体験」だと思います。

カーシェアリングも普及し、車を持たない人も増えるなか、車の性能やデザインをアピールするだけでは消費者に響きません。
これは、LEXUSが作り出す憧れのライフスタイルをイメージさせて、消費者を育ててnextstageに連れていくような「ブランド体験」と言えるでしょう。

3)L’OCCITANEの接客コンテストとキャンペーン

匂いを嗅いで塗って、香りや使用感を体験するロクシタンの売り場。
L’OCCITANE(ロクシタン)では、2012年から毎年「接客コンテスト」を行っています。

ありきたりではありますが、L’OCCITANEにとっては店舗が顧客の入り口であり、言わば最強のメディアでもあるわけです。
そこで、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の頂点である、お客さまの「期待を上回る接客」ができるスタッフ(エトワール)となることを目標とし、接客スキルはもちろん、スタッフのモチベーションを上げることに成功しています。
それは即ブランド価値を高めることになりますし、消費者にとって最高の顧客体験ができることになりますから、一見当たり前のことにように見えても、実はすごく大事な「ブランド体験」だと教えてくれているのです。

一方、L’OCCITANEは2018年秋に「バルーンジャーニーキャンペーン」を行いました。
SNSのフォロワーになって投稿すると抽選でプロヴァンスツアーに行けたり、投稿によりプロヴァンスの自然保護につながるプロジェクトに参加できたり、スマホでシアバター作り体験ができたり、花々からオイルを作るなどの体験することでスタンプを集めてエコバッグをもらうなど、さまざまな体験ができるというものです。

これぞまさに「消費者とブランドの共創」で、サステナブルなブランドという良いイメージも同時に広めることができてさらなるブランド価値の向上となった、良いお手本となる成功事例です。

5.まとめ~消費者の心に届くブランド体験~

今の時代は「モノ」を所有するという豊かさよりも、「人とのつながり」や「心(体験)の豊かさ」、そして、人や環境などに配慮した善行、いわゆる「エシカル消費」など、「コト」を体験することで得られる充実感に価値を見出すようになりました。
なるべくモノを持たず、シェアやレンタルを好む価値観も広がっています。

これからは、単に「モノ」そのものを売るだけではなく、購入前、購入中、使用中、使用後までのトータルな「ブランド体験」を売っていかなければなりません。

それには企業と消費者がいっしょに夢を見て、共に「ブランド」を育てていく「共創」が求められます。
そうすることで、消費者の心にしっかり届く「ブランド体験」ができるのです。

「次もこのブランドにしたい」と思わせるために、まずはいっしょに「ブランド体験」を学んでみませんか?

(株式会社オレンジフリー代表取締役/ブランド戦略コンサルタント 吉田 ともこ)

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