第19話 草刈正雄は19歳
2020.06.01
さて、私の新しい会社での最初の挑戦が始まった。
仕事は、ダイヤモンドの婚約指輪キャンペーン雑誌広告1年間。
私だってまだ若い。ダイヤモンドの婚約指輪は憧れの存在。当時は夢のまた夢。そんなキャンペーンを制作できるなんて、自然に肩に力が入る。ぜひ若い人たちが憧れる広告を作りたい。
まずイメージの展開。
熟考を重ねたスケッチをプレゼンすると、なんとまぁたくさんのコメントの嵐。
・メルヘンの世界だけではね〜
・指輪をもらった喜びが伝わるように…
・現実の生活感が伝わるように、ほらご両親に嬉しい報告とか…
・まだダイヤモンドの婚約指輪の認知がないからそこの説明を…
一方クライアントからは
・写真はバイアウトが条件。プリントしたものをロンドンでヨーロッパの国に見せ、希望したら使用させたい。故に日本的なものはNG
これらの要求に目を回しつつ、
なんとか答えを探しながら、絶対引けない心に決めた3点があった。
・モデルの男性は草刈正雄
・カメラマンは吉田大朋
・ロケ地は北海道
草刈正雄は当時売れっ子、先輩のキャスティングの草分け、Y.Hさんのおかげでなんとか3日キープできた。
巨匠 吉田大朋さんは、こんなひよっこのオファーを快く受けてくださった。
北海道、これが問題だった、何せ私は北海道に行ったことがなかった。当時はロケマネージャーなる便利な人もいなく、旅行案内を片手に毎日毎日電話をかけまくった。函館市役所、網走市役所、観光案内所、タクシー会社、民宿、当時は有名な原生花園がある名寄でも民宿が2件あるだけだった。
2組のモデルカップル、カメラマン、助手、スタイリスト、私の4人。5日間の函館と網走のロケ、北海道は想像以上に広かった。名寄では街に2台しかないタクシーを借り切って移動した。
たまたまELLEを見ていたら、あ!フランスが使ってくれたんだなと嬉しかった。
色調がやはりフランスっぽく、左右が日本のものとは逆だった。
日本で掲載したものと、イギリスのカタログで使われたもの。
たまたま農家の人とがかけた丸木橋を見つけて、早速利用、ちょっと危険だった。
吉田大朋さんは撮って、撮って、撮りまくってくださった。
民宿の手配、食事の手配、進行役、走り回った5日間。今思うと若さと無知と、大胆さと、あとは人の優しさに支えられて押し切ったロケだった。
お金の計算などが書き込まれた当時の手帳。
結果は12枚のプリントをロンドンに送り、ヨーロッパの国にも選ばれ、第一の関門は突破。ここで私とダイヤモンドとの22年間に及ぶ付き合いが始まった。
いまコマーシャルで、素敵なおじさまになった草刈さんを見かける。19歳の無口で、ピュアで、食が細く私を心配させた少年を思い出し、時の流れを感じる。
そういえば東京—女満別の飛行機はプロペラ機だった。