第8話 作家への挫折
2019.11.15
平凡で当たり前な中学生であったが、自分の中では常に呪文のように考えることがあった。将来何になる、何になれるかであった。一生の仕事を見つけなければならない。
少々退屈な学生生活から逃れるために、私は未来の自分を夢見た。作家になりたいという漠とした憧れ。そのため、小説を書くことに励んだ。とても小説と言える代物ではなかったが、運の良いことに中学一年の終わり、何気なく書いた短編が一年に一回出される学校の小冊子に掲載された。
中学生時代。
それはある夏の夜、父が留守で、子供たちだけで過ごしていた我が家に起こった実際の出来事を元に、一寸、スリラー仕立てにして書いたものであった。
両親が留守で、子供達だけが留守番をしている夏の夜、親がいないことで開放的になり、おしゃべりに夢中の兄弟が一瞬静まり返る。屋根から聞こえる怪しい物音。急に怯える幼い妹や弟。慌てふためく年上の兄弟。泥棒か!強盗か!みんなの脳裏を走る凶悪犯罪のニュース!結果は、なあ〜んだ。
こんな感じの短編であった。
しかし選ばれて掲載されたことは私を大いに勇気付けた。少し将来への可能性が出たように感じた。
当時の小冊子。父に見せていなかったので、掲載されたものに早速父が赤を入れてしまった。
掲載された中で私の作品は面白かったのだと思う。旧友が私を見る目が変わったのを感じた。このことは私を傲慢にさせた。私はその余韻に浸ってダラダラと過ごし、その後文章を書くことに励んだわけでもなかった。
卒業間際の中学3年の時、私の作家希望もはかなく消えてしまった。というより自分で希望を吹き消した。理由は学校の小冊子に、ある短編が載った。その作者はペンネームを使っていた。それゆえ学友は私が書いた物と信じ込んだが、それは私でなかった。
その小説は私に衝撃を与えた。内容は淡い男女の恋であった。しかしとても私が書ける物ではない、大人の視線のものであった。私は大いに打撃を受けた。
ゴッホの自画像のスケッチ 。その頃、画家ではゴッホに傾倒していた。
物を書くという事において自分を見つめ直すと、自分は褒められたから書いてきたのであって、止むに止まれず、突き動かされて書いてきたというような、書くということに情熱を持っていないと思った。また人の心の奥深くを模索し文章表現にするという考えもなかった。作文が上手にかけることで鼻にかけていた自分が、子供じみて情けなく感じた。
作家になる選択肢を、私はそっと捨てた。